「おえかき和尚 うた日記」 書籍判
A5判、縦書き 130頁 定価600円(税別)
 
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惜別のこと    平成九年九月十日
 当地の農村部、八代(やしろ)地区で葬儀をつとめる。久しぶりに自宅式の葬儀。十年くらい病身で、肺の機能が悪化していた男性のお年寄りが亡くなった。鼻から酸素を入れる機械をつけて、何年も過ごしていたそうだ。
 檀家さんは古い農家で付き合いが多く、大ぜいの方が焼香に来られた。昔の習慣で、出棺の時、つれ合いの奥さんは家に残って夫を見送り、息子さんの家族が火葬場へ向かった。
 私も、自宅式葬儀の古い勤め方で、出棺したあと自宅へ残り、忌中(きちゅう)回向(えこう)の準備をしていた。棺(ひつぎ)の車が門を出て、親族も車でつづいて出る。
 あたりは見わたすかぎり田んぼで、稲刈り直前の稲が黄金色(こがねいろ)に波うっている。
その田の道を、葬列の車が静かにゆっくり小さくなっていく。
 当家の廊下(ろうか)の縁(えん)がわで、私と老妻さんが正座して故人を見送った。長い年月の看病で、疲れが表情にあらわれていたが、なにより、田の中を進んでいく車を追っていく老妻さんの細い眼差(まなざ)しにうたれた。
 別れの悲しみと、長い看病から突然の解放と、葬儀が終わった安堵感(あんどかん)と、何か、別れの時のすべての感情が一つとなった、さびしく静かな眼差しだった。
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稲穂垂る八代の田道を棺ゆき
縁より見遣る妻の眼差し


※忌中回向・・・・・・亡くなってから四十九日忌までの法要をさす。葬儀後の忌中回向は、初三日忌や初七日忌の法要が多い。