「おえかき和尚 うた日記」 書籍判
A5判、縦書き 130頁 定価600円
(税別)
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アリジゴクのこと 平成九年十月十九日
日中、奥の庭の軒下(のきした)のかわいたやわらかい土の所で、アリジゴクのいた跡を見つけた。おちょこのような形の穴が2〜3コみとめられた。竹やぶに近い、家人も気づかない所なので、秋までほうきではかれることもなかったのだろう。
アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫なので、成虫は湿気の多い初夏から初秋にかけて、よく見られる。今ごろは、生息(せいそく)していない可能性が高い。小枝で、そーっと穴の奥をさわってみたが反応はなかった。
晩、ちょっと庭に出たら、月明かりに、そのアリジゴクの穴が見とめられた。
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つきさ ありじごく
さえざえと月差しおりも蟻地獄
翌日、おもしろい句を作ったと思い、父に見せると、月にアリジゴクは珍しい句だとよろこんだが、
差し入るも
を
差しおりて
と直した。はじめ、何が問題点か分からなくて、私は自分の句にこだわった。父も、私に納得いくような説明ができないで、ただ
差しおりて
のほうがいい、と言うのだ。
晩、ゆっくり句をながめていると、私は虫を中心に句を作っていることに気づいた。日中、アリをつかまえるアリジゴクなので、夜はアリは出歩くことはないでしょう、という皮肉まじりのおもしろさをこめて、
差し入る
もとしたのだ。
反対に父は、ただ、さえざえと月がアリジゴクの穴に差している。その静かな風情を読んで、
差しおりて
としたのだった。
虫好きの私は、穴の中にアリジゴクがいると仮定して読んだのだ。私は狭い感情の穴におちいってしまっていた。
つきさ ありじごく
さえざえと月差しおりて蟻地獄 幹明
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