「おえかき和尚 うた日記」 書籍判
A5判、縦書き 130頁 定価600円(税別)
 
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タマムシのこと       平成十二年七月二十四日
 市の行政委員の重要な仕事があり、一日中、市役所に詰める日。スーツを着るため、朝、ワイシャツにネクタイをしたまま、部活で早出の息子をJRの駅まで車で送る。エンジンをかける前に、毎日の仕事のカギ開けをしに裏門のほうに向かう。
 本堂わきの軒下のたたきの所に来て、生まれたばかりのような、まばゆいばかりに美しいタマムシを見つけた。裏門のカギを開け、ちょっと竹やぶの方の木戸を開け、もどったら、もう、タマムシはいなかった。
 時間の余裕がなく、毎朝やっているカギ開けに手間どり、つい虫から目をはなしてしまった。じっとしている様子だったので油断してしまった。先につかまえておけばよかったのに……。
 ここ数年か、竹やぶなどでタマムシの死がいは見かけたが、生きたタマムシは環境が変わったのだろうと、あきらめていた。
 市の要職の仕事のさ中、母の病状もしだいにきびしくなってくるさ中、そして、息子の大事な夏の大会のさ中、タマムシは七色に輝く光明を瞬時に手にするような気がした。その美しい宝物は、するりと私の視野から逃れて、夏の空に消え去ってしまった。

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たまむしや掴む間もなき出勤時



※たたき……コンクリや土でかためた土間。土足の床。