「おえかき和尚 うた日記」 書籍判
A5判、縦書き 130頁 定価600円(税別)
 
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巡礼のことなど     平成十九年十月十六日
 京都へは行っても、奈良まではなかなか足をのばせない。奈良の大仏さんは、たしか中学か高校の修学旅行でお参りしただけだと思う。もし、そうなら四十年以上前となる。二十才すぎた学生の頃、短い修業が本山知恩院であり、終わってから奈良へ一人旅したが東大寺へは行っていない。
 宗派の団体参拝旅行があり、そんなご無沙汰の奈良へ行けることになった。法然上人二十五霊場の第十一番の寺が東大寺敷地内にあるというので、歴史的にも奈良と鎌倉初期という時代差に興味があり、たのしみに思った。
 東大寺大仏を再建する責任者となった重源は約八百年前の方で法然上人と同時代人であり、重源が工事中に建築関係者に指示を出した指図堂というお堂が東大寺のそばにある。このお堂に、重源は法然上人を招き、浄土三部経を講説していただいたという由緒の寺であった。
 私達は奈良に入り他の寺をお参りし、宿で一泊して翌朝、東大寺参拝となった。天気はじつにすがすがしい秋日よりであった。東大寺の駐車場でバスを降り、すぐに公園のような広々とした境内に入ったが、私達のそばをサーッと鹿の群がとおりすぎた。
 ああ、奈良に来たなぁ、と思った。
 ガイドさんの旗を先頭にして、バスの号車ごとに先輩の一団がぞろぞろと歩きだす。指図堂は小さなお堂らしく、二班に分かれてお参りすることになった。私達は大仏さんをお参りしてから、大仏殿の長い塀にそってその外側を、左奥の方へ進とお寺が見えてきた。
と、突然うしろの方から、クゥェーッというようなケモノの声がする。ふり向くと姿は見えないが、うしろの方の奥は谷になっていて、その斜面から鹿が鳴いたのだ。
 芝生と背の低い松が所々にある、ゆるりとした道を私達は歩いているが、その前方にも何頭か鹿がいる。
 生まれてはじめて鹿の声を聞いたのも、この奈良だったと思う。

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巡礼のあとや先聞く鹿の声

 鹿のかわいらしい姿には似合わない声に、少年の頃も老いた今も、私はじつにおどろいてしまったものだ。